最高裁判所第三小法廷 昭和49年(行ツ)111号 判決 1976年11月30日
上告人 漆原不動産株式会社
被上告人 本郷税務署長
訴訟代理人 二木良夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人田中紘三の上告理由第一について
国税通則法七〇条二項四号は、「偽りその他不正の行為」によつて国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合、これに対して適正な課税を行うことができるよう、同条一項各号掲記の更正又は賦課決定の除斥期間を同項の規定にかかわらず五年とすることを定めたものであつて、「偽りその他不正の行為」によつて免れた税額に相当する部分のみにその適用範囲が限られるものではないと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同第二について
上告会社に国税通則法七〇条二項四号にいう「偽りその他不正の行為」があつたとした原審の認定判断は、正当として是認することができる。論旨は、独自の見解を前提とするものであつて、採用することができない。
同第三について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 服部高顯 天野武一 江里口清雄 環昌一)
上告理由
第一 原判決は左の点において、国税通則法七〇条二項四号の解釈適用を誤り、その結果上告人の主張事実に対し誤つた判断をしている。
一 原判決はつぎのようにいう。(イ)国税通則法七〇条二項四号は、「偽りその他不正の行為」により税額の全部又は一部を免れた事実があればこれを適用することができるのであり、その免れた具体的な税額はその更正処分で特に区別して明示しなければならないものではなく、右更正処分で当該納税者に対する全体の税額を明らかにすれば足りるのであり、(ロ)ましてやその更正処分に対する無効確認訴訟で被控訴人税務署長が右免れた具体的な税額について主張責任を負つているものと解することはできない。(ハ)また、右法条を適用して更正処分をする場合、その更正処分が青色申告にかかるものでなければ、どのような「偽りその他不正の行為」があつたかを更正処分において明らかにしなければならないものでもないというべきである。(ニ)それに、また、右法条は控訴人の主張するように、「偽りその他不正の行為」により免れた税額に相当する部分のみにその適用範囲が限られるものではなく、「偽りその他不正の行為」により脱税した納税者に対して更正処分のできる期間を、法七〇条一項に定めている三年という短期の期間に制限する必要がないものとし、これを五年に延長しているものと解するのが相当である、と。しかし、国税通則法七〇条二項四号をとくに右(ニ)のように解釈することは誤りである。
二 そもそも憲法八四条に規定する租税法律主義の原則は、法律なければ課税されることがないことをも意味しているものである。したがつて、租税法規を解釈するにあたつては、あたかも刑罰法規を解釈するときのように、厳格な解釈をすべきであつて、類推解釈や拡張解釈は許されないものというべきである。しかして、国税通則法七〇条二項四号にもとづく更正期間の延長は通常の更正期間に対する特則とされているものであるから、その適用の範囲についても厳格な解釈がなされなければならないものである。
三 ところで、国税通則法七〇条二項四号によれば、「偽りその他不正の行為」により国税の全部もしくは一部の税額を免れた場合には、同項所定期間満了時までは、その偽りその他の不正の行為による租税逋通脱分を徴収するため、当該国税につき更正(又は賦課決定)できることは当然である。国税の更正は単に課税標準等または税額等の増額分または減額分を対象とするのではなく、納税申告書にかかる課税標準等又は税額等の全部を対象とするものだからである。しかしながら、かりに法定納税期限から三年経過後五年経過前の期間において納税申告書中に課税標準又は税額の計算の誤りが発見され、しかもその一部については偽りその他の不正行為にもとづく国税の通脱ありとみとめられるのに、残りの部分については単に納税者側における申告の失念ないし計算の過誤でしかないような場合における更正にあたつては単に申告を失念し、または計算の過誤に陥つたにすぎない分をも課税標準等又は税額等を増減額させる基礎となしうるものではないというべきである。
国税通則法七〇条二項は適正な課税を目的としたものであるにすぎず、種類数額のいかんをとわず偽りその他の不正の行為により国税を逋脱した者に対する報復をすることを目的としたものではないからである。
原判決は国税通則法七〇条二項を右のように解釈しないことの根拠として右法条の制定経過なるものを根拠としているが、同判決において引用されている乙第一三号証の一ないし五によつても右法条が右のような報復を目的としていたものであることはうかがえない。右乙第一三号証の一ないし五は、国税逋脱があつた場合における逋脱分の課税をどうするべきかを論じたにすぎず(従つて個々的事例にも言及してある)、決してそれ以上に及んで被上告人の主張にくみする主張をしているものではないのである。
第二、第三<省略>